ニセコ町、その驚くべき行政のすがた~そのみちのコラムより

2014年の4月30日号から1年にわたり片山健也ニセコ町長に「そのみちのコラム」を執筆いただきました(平成26年4月30日号〔第1952号〕~2015年(平成27年)3月30日号〔第1974号〕。

 

地方分権は、本当に必要なんですか?」という私の無謀な(?)問いかけに答えるかたちで始まったコラム。
地方自治=民主主義の具現化。片山氏が語るニセコ町の行政の姿は、想像を超える確かな回答をくれました。

今やリゾート地として世界中から注目を浴びるニセコの町には、こんな町づくりがあったのか、と最も印象に残った言葉をご紹介します。

 

○第10回「忌避政策」より

2002年(平成14年)中に新たな一般廃棄物最終処分場を建設・稼動しなければならなくなったニセコ。処分場のような「迷惑施設」設置に際し、どのような対応をとったのでしょうか。

 

「建設候補地は、選定基準に基づいて選ばれた7か所を広報誌で公表し、その後、議論のうえ、2か所にまで絞り込み、さらに最も適すると評価された建設予定地区の住民と話し合いを行った。数度の会合の後、当該自治会から『賛成はできないが、建設はやむを得ない』との回答を得た。この回答を受け、建設地を決定し、直ちに環境影響評価の作業に着手した。」

 

調査着手後には住民組織が結成され、激しい反対運動が展開されたといいます。町内への抗議のビラ配布や、インターネットで反対運動が拡散されたこともあり、役場には抗議のメールやファックスの山。しかし、多くの自治体と対応が異なるのはここからです。

 

「反対している方々との対応の基本は『情報共有の徹底』で、個人情報を除く『全ての情報を公開する』ということであった。…私たちのまちでは、勤務中にした行為は、全て情報公開対象としているので、電話で受けたメモ紙も公開対象となる。環境影響評価作業は、専門の調査会社に委託したので、調査員が地名の記載を単純に間違って記述することもあり、その場合はファックスなどで間違いの修正を依頼した。こうしたやり取りも全て公開したことから、逆に些細な誤解を生むことも多く、当時担当課長であった私の実名入りで『課長が情報の改ざんを指示』など、様々な誹謗中傷文書が流された。職場の先輩からは、『情報公開が事業の円滑な推進を阻害している。公開する情報を限定しろ』とのお叱りも受けた。」

 

「しかし、反対する人たちの環境に対する不安を払拭するには、何も隠さない真摯な取り組み以外にないとの確信もあった。徹底した情報公開と話し合いを何度も重ねた結果、『役場に隠し事がないことがわかった』との言葉を得、夜遅くの会合で反対する方々と『力を合わせて良い処分場を整備する』ことで合意することができた。」

 

「交渉の過程では、建設する地域に特別な補助金を出すことや、公園を造るなど地域を優遇するようなことは一切行わないとしてきた。こうした優遇策の提示は、忌避政策の質を劣化させ、今後の住民自治に悪影響を及ぼすとの判断からであった。」

 

 

 

ここに「私たちのまちでは、勤務中にした行為は、全て情報公開対象」とあるのは、第5回「『文書管理』と職員の意識改革」で語られた「ファイリングシステム」の導入で可能となったものです。

 

公文書は「主権者である住民が自らまちづくりに利活用するための文書を町が預かって管理するもの。町が住民への説明責任を果たすためのツール」

という基本的な考え方を実践するためにシステム導入に挑んだものの、そこに至るまでの職員の抵抗など、その難産ぶりが描かれています。

 

このほか、1964年当時、全国最年少の町長として就任後間もない35歳の町長(現衆議院議員 逢坂誠二氏)が、懸案事項だった「公共トイレ」の設置について「白紙の段階から町民のみなさんと検討を進めてください」という指示をして始まったフリーの検討会方式のこともご紹介せずにはいられません。

 

当時、担当者として傍聴していた片山氏も、到底意見の集約など図られないものと思っていたそうです。しかし、行政批判と同時に町の将来を展望する冷静な意見もあり、協議の結果、たたき台となる素案を役場でつくって提示し、協議を重ねて1年間の検討を経てつくられた案は、「主要道路の交差する交通量の多い場所に、観光インフォメーションとトイレ機能を有しただけの質素な“道の駅・ニセコビュープラザ”を設置する」というもの。

その後、農業者が農産物の直売所を始めるなど、18年を経過した現在、施設全体で4億円を売り上げる人気の観光スポットとなっているということです。

 

町長の一言から「政策意思形成過程への住民参加の一形態」であるフリーの検討会方式が始まり、今やニセコ町の住民参加の仕組みとして定着した、というのはちょっと夢のような、心が明るくなる話です。

 

さて、片山氏への執筆依頼は、情報公開を圧倒的方法で進めることを可能にする「公文書管理の方法」をめぐる勉強会でお会いしたことがきっかけとなりました。

公文書管理の方法については、時の法令連載「静かな革命 公文書管理法がつくる行政のかたち」〔原田三朗:駿河台大学名誉教授・行政文書管理アカデミー学長・廣田傳一郎:駿河台大学大学院客員教授・行政文書管理改善機構(ADMiC)理事長〕に詳しいので、ぜひご参照下さい。

(C.S)